2012/05/16 21:49:38

陳さんが逝去されました。ご冥福をお祈りします。
今朝の新聞の記事に、ほとんど言葉も出てこないくらいのショックを
受けました。初めて陳さんにお会いしたのは2004年のことで、
弟子をとらずに理想を追い求める孤高の魂がそこにはありました。
陳昌鉉さんこそは、私が生涯出会った最大の「天才」であり
最高の弦楽器製作者でした。そんな彼から学んだことは
「好奇心を持ち続けること」「人の話に熱心に耳を傾けること」
そして「謙虚たれ」ということでしょうか。
当時、私は使用中のチェロにパワー不足を感じたため新しい楽器を
探していましたが、巡り合ったのが陳さんの楽器でした。
輝かしい経歴と技術に裏打ちされたチェロはその年の弦楽器フェアに
出品するためのもので、ストラドをモデルにした美しい形と、
黄金色に輝くニス、そして成形の確かさから放たれる繊細かつ
パワフルな音はとても魅力的でした。そのデビューは第2回目の
ライヴ・イマジンでの「白鳥」でした。奥様とお祝いに会場へ
駆けつけてくれたこと、そしてまた来日したチェロ奏者の
スティーヴン・イッサーリスさんを終演後のサイン会の折に訪れたところ、
それまで椅子に座っていたイッサーリスさんが突然立ち上がり、
最大の敬意を示してくれたことに感動しました。
そして先日の第22回のコンサートまで、ライヴ・イマジンの発展は
このチェロとともに歩んでいます。
去年不注意からこの楽器に大怪我をさせてしまい、修理に4か月を
要しましたが完璧に直していただくことができ、
音色は少し変わってしまったものの私はこれからもこの楽器に
尊敬と誇りを持って演奏し続けます。そろそろ退院後初の調整に
お伺いしようとしていた矢先、訃報に驚きと深い哀しみにくれましたが、
今頃はきっと天上で生涯追い続けたストラディバリ氏と
目を輝かせて楽器論を語り尽くしているのではないでしょうか。
永遠の美しい響きを求めた同志として・・合掌。
(特別寄稿 by jn)
2012/05/14 21:19:01

5月12日にライヴ・イマジン22の公演が無事終了しました。
今回は会場が手狭であったために、お客様を十分に
お呼び出来なかったことが悔やまれますが、ご報告させて頂きます。

初夏を思わせるような快晴の天候に恵まれ、いつもとは少し趣向を変えた
曲目でのプログラムは、「ドビュッシーからピアソラへ」ということで、
パリで教鞭をとっていたナディア・ブーランジェが介在した
音楽の歴史を意識しました。

第1曲目は、ピアノ独奏でドビュッシーの「子供の領分」。
愛娘シュウシュウの為にドビュッシーが愛情込めて作曲した短い6曲から
成るものです。会場のプレイエルという、ショパンが愛用したことで
知られるフランス製のピアノからは、ドビュッシーのエッセンスを
詰め込んだ色彩豊かな響きが会場を満たしました。

続いて、同じドビュッシーのピアノ三重奏曲です。
あまり演奏される機会のない曲ですが、若き日の煌めきを感じさせる
美しい旋律、独特の和声が三人三様で奏でられ、夢見るような雰囲気を
醸し出します。18歳の青年はその先に何を見ていたのでしょう。
休憩時間には、演奏者とお客様で和やかな会話は弾んで、
サロンならではの穏やかな光景も見られました。
後半は、ピアソラの作品を。
前半は女性2人が爽やかなブルー系の衣装でしたが、後半は一転して
情熱的な赤系に衣装を変えて会場の空気を変えました。
ピアノ独奏で「南へ帰ろう」から始まり、派手なグリッサンドや
ピリッとした独特のタンゴのリズムに目が覚める思いでした。

続いてタンゴの歴史より「カフェ1930」をヴァイオリンとピアノで
情感豊かに歌いあげます。

3曲目はチェロとピアノの為に作曲された「グランタンゴ」を。
3楽章構成の華やかな曲です。

4曲目からはコントラバスが加わり全員で「鮫」を。パンチの効いた
低音の上を技巧的なヴァイオリンが彩ります。

そしてプログラム最後にふさわしく、ピアソラが亡き父に捧げた
最大傑作であり大人気曲の「アディオス・ノニーノ」で締めくくりました。
カデンツァを思わせる長いピアノソロ、ヴァイオリンとチェロの美しい調べ、
雄弁なコントラバスが旋律を織りなして感動的な大団円でした。

アンコールには、忘却という意味を持つ「オブリビオン」で
しっとりとした余韻を残しました。
次回の「ライヴ・イマジン23」は、10月6日(土)神楽坂の「トモノホール」にて。
ベートーヴェンのホルンソナタ、シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」他です。
どうぞお楽しみに。
2012/05/04 13:06:54
GENUIN GEN88126】

【GENUIN GEN88126】チェロ・タンゴ
エッカート・ルンゲ(チェロ) ジャック・アモン(ピアノ)
私のドイツ人のイメージは碧眼、金髪、長身、堅物、スマイルなし、
完全主義などなど、ちょっと近寄りがたい感じですが、
このチェロを弾いているルンゲ氏もまったくイメージ通り
と言っては失礼でしょうか・。ところがそのルンゲさん、
顔に似合わずタンゴにかけては右に出るものがいないくらい
素敵な演奏をします。アルテミス四重奏団のメンバーでもあり、
あのミュンヘンのコンクールで最上位を受賞した実力は折り紙つきで
それはそれでイメージ通りですが、とにかくアモン氏とのタンゴの演奏は
ときに、優しさや、ささやくようなピアニッシモ、くすぐったいような
ヴィヴラート、燃えるような情熱、ためいき、エロチックなグリッサンドなど、
すべてを表現してしまう幅広い表現力を持っています。
愛聴盤の一枚には「ジェラシー」などのタンゴのトラッドものから
ピアソラ作品まで、タンゴがぎっしり詰まっています。
「グラン・タンゴ」はピアソラがロストロポーヴィッチにささげた
チェロとピアノのためのオリジナル曲です。
ルンゲ=アモンのチェロプロジェクトの演奏はヨー・ヨー・マのものよりも
はるかに自由に羽ばたきますが、リベルタンゴの即興性よりも
しっかり書かれた譜面があるため、クラシカルなナンバーとして
じっくりと聴かせてくれています。
ピアソラがクラシックの基礎を勉強した人であったことを思い起こしました。

【GENUIN GEN88126】チェロ・タンゴ
エッカート・ルンゲ(チェロ) ジャック・アモン(ピアノ)
私のドイツ人のイメージは碧眼、金髪、長身、堅物、スマイルなし、
完全主義などなど、ちょっと近寄りがたい感じですが、
このチェロを弾いているルンゲ氏もまったくイメージ通り
と言っては失礼でしょうか・。ところがそのルンゲさん、
顔に似合わずタンゴにかけては右に出るものがいないくらい
素敵な演奏をします。アルテミス四重奏団のメンバーでもあり、
あのミュンヘンのコンクールで最上位を受賞した実力は折り紙つきで
それはそれでイメージ通りですが、とにかくアモン氏とのタンゴの演奏は
ときに、優しさや、ささやくようなピアニッシモ、くすぐったいような
ヴィヴラート、燃えるような情熱、ためいき、エロチックなグリッサンドなど、
すべてを表現してしまう幅広い表現力を持っています。
愛聴盤の一枚には「ジェラシー」などのタンゴのトラッドものから
ピアソラ作品まで、タンゴがぎっしり詰まっています。
「グラン・タンゴ」はピアソラがロストロポーヴィッチにささげた
チェロとピアノのためのオリジナル曲です。
ルンゲ=アモンのチェロプロジェクトの演奏はヨー・ヨー・マのものよりも
はるかに自由に羽ばたきますが、リベルタンゴの即興性よりも
しっかり書かれた譜面があるため、クラシカルなナンバーとして
じっくりと聴かせてくれています。
ピアソラがクラシックの基礎を勉強した人であったことを思い起こしました。
2012/04/29 00:58:13

【Guild GMCD7190】
ショパン・11のノクターン集
ミシェル・ブロック(ピアノ)
1960年のショパン国際コンクール。有名な事件がありました。
1位はポリーニ、これは全審査員一致、審査員長のルービンシュタインが
「ここにいるだれよりも上手い」、と称賛しましたが、
以下の順位の決定で事件が起きました。先のブログにも触れましたが、
ルービンシュタインの「自伝」(共同通信社刊)からその部分を
そのまま引用します。
『投票が済み、蓋を開けてみると、ポリーニが圧倒的多数の支持を
受けて優勝した。ところが驚いたことに、二位はピアノをたたいて
いただけのロシアの女性の手に渡り、三位はおそらくその容貌が
多くの審査員に気に入られたと思われるイラン人の女性、
四位は才能はゼロのハンサムなロシア人、五位と六位はここまで
残るべきではなかったポーランド人、十位は日本語でショパンを
弾いた日本人、そしてやっと十一位にミッシェル・ブロックであった。
私は明らかな不正を見過ごすことが出来ない人間である。
審議の間、私は他のもののように後ろ盾のないブロックに対して、
審査員たちが敵意に満ちた態度を示すのに気づいていた。
委員長代理のズビグニエフ・ドルゼヴィエツキによって投票の結果が
発表されると、次は私が審査委員の労をねぎらい、名誉委員長に
えらばれたことを感謝する番だった。終わって席につくかわりに
私は声を張り上げて、審査員に宣言した。「皆さん方の委員長として、
ここにアルトゥール・ルービンシュタイン賞とでも呼ぶべき、
特別賞を加えたいと思います、この賞は第二位に相当する賞金を伴い、
私はこれをミッシェル・ブロック氏に与えます」』
その2年後、ブロックはアメリカでワイセンベルク、クライバーンらが
名を連ねた栄えある「レヴェントリット賞」の表彰を受けています。
そして、ここの日本人は田中希代子さんのことでショパンコンクール
における日本人初の入賞でした。ここにそのブロックのノクターンの
演奏があります。ほとんど録音を遺さなかった人ですが、
ようやく自分の耳でその実力を判断できるものが手に入りました。
「静」の音楽です。でもなんときめ細やかな奥深い表情を紡いでいく
ことでしょう。決して聴く者に緊張を強いる音楽でないし、
冷たい音楽でもありません。スケール感とか天才のインスピレーションに
溢れているわけではないにしても、少なくともこのノクターンは
超一級の演奏だと思いました。実際ジュリーニとのラヴェルもすごかったし。
1997年に引退して静かで幸せな余生を送っているそうです。







