2017/08/03 14:14:40
【Wiener Urtext Edition】
Overture to "The Abduction" ("Die Entführung aus dem Serail")
Original Piano Edition, KV 384/1
Composer: Wolfgang Amadeus Mozart
Edited from the sources by Ulrich Leisinger
Fingering: Detlef Kraus
Postscript: Robert Levin
モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」は当時大ヒットしました。
となると著作権などない時代のこと。すかさず室内楽に
ピアノソロにと編曲して出版する輩がたくさん出てきます。
いくらモーツァルトであっても先を越されてしまうと
二番煎じになりかねないため、先んじてピアノソロへの編曲を
出版しようとしました。当初はオペラ全曲を意図したらしいことが、
父レオポルドへの手紙に残っていますが、どうやら
遺されたものはわずかで、その中の一つがこの「序曲」です。
何といっても作曲者自身の編曲。
軽快な出だし、「逃げろや逃げろ!」はまったく屈託のない
魅力的なものですが、実はこの楽譜の最後には「カプリッチョ」が
添えられていて、独立した曲としての体裁を整えています。
この出版に一肌脱いだレヴィン曰く、
「ちろん、コンサートではカプリッチョ付きで弾いているよ!」とのこと。
2016/12/20 15:14:55
【Leipzig C.F.Peters】
メンデルスゾーン 八重奏曲 Op.20
作曲者による4手編曲版
メンデルスゾーンの八重奏曲をアカデミー室内アンサンブルの
演奏で聴きました。素晴らしいメンデルスゾーン、おみごと!
これが16歳の時の作品と知って二度びっくり!
「真夏の夜の夢」序曲がまだ二十歳前なのは知っていましたが、
これより以前にこんな素晴らしいものを作っていたなんて。
一気にこの曲のファンになってしまいましたが、
なにしろ弦楽のための曲。
ピアノ弾きには所詮縁のないモノと寂しい思いをしていました。
ところがそんな折、発表会用のピアノ連弾作品を探しているときに、
なんと作曲者自身が4手用に編曲したものがありました。
ペータースの譜面も入手、さっそくこれを公開でやろうと相方に
連絡しました。ピアノという単色の楽器がどれほどこの曲を
伝えられるか心配ですが、ロマン派の作曲家たちは交響曲を
はじめとして自身の大きな作品をピアノ連弾に編曲しています。
ブラームスしかり、シューマンしかりですが
当時のピアノブームを思い起こされます。
プレスト、息を吞むような音楽のうねりに熱くなりました。
2016/10/12 01:19:01
【Musikproduktion Hoeflich】
スタディ・スコア 114
フォーレ ピアノ五重奏曲第1番 ニ短調 Op.89
練習の時には、ほとんどの人がスコアを持参します。
どれだけ役に立っているかは本人次第ですが、
まずこれがないと弦楽器奏者はつとまりません。
なぜなら自分の弾く分しか楽譜(パート譜)にはないので、
スコア(総譜)を見ないと、他の人が何をやっているのか
さっぱりわからないのです。
素朴な疑問は、ピアノの入った室内楽の場合、
ピアノ譜の上にはほかのパートが小さめではあってもちゃんと
印刷されているのです。どうしてこういう慣習ができたのか
教えてほしいくらいですが、とにかくスコアは演奏するには
絶対条件になります。オイレンブルク(イギリス)なんていう
スコア専門会社も存在するくらいですから。
この曲の出版はアメリカのG.Schirmer(!)から1907年、
初演の翌年に出版されています。演奏譜もながらく手に入りにくかった
ものですが、最近のスコアはなぜかドイツのHoeflichです。
それは出版されているようですが、なかなか入手しにくいもの
とのことで、店頭でみつけたらどうかお見逃しなく。
(特別寄稿 J.N)
■管理人より文中の言葉について少し補足します。
一般的には、「スコア」というと何かの「点数」みたいな
意味合いで使われると思いますが、音楽の場合の「スコア」は
演奏する全部の楽器の楽譜が書いてあるもので
「総譜」と呼ばれるものです。
オーケストラの曲だと指揮者の楽譜に全員分の楽譜が
書いてあり、指揮者はそれを見ながら各奏者の動きを把握して
全体をまとめていくことになります。
上記の文章にもありますように、ピアノの入った室内楽では、
ピアノの楽譜に全員分の楽譜が書いてあります。
これは、ピアノが指揮者と同様の役割を担う為だと思います。
フォーレのこの曲の冒頭部分は以下の通りです。
上の段から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン
ヴィオラ、チェロ、そして沢山の音符が書いてあるのが
ピアノです。このページの上段は全員の1小節目、
下段は全員の2小節目です。この曲はピアノで始まり、
2小節目で第2ヴァイオリンが旋律を弾きます。
そして、「パート譜」というのは、
それぞれの楽器の担当部分だけが書かれている楽譜です。
以下は、それぞれの楽器ののパート譜です。
上段左が第1ヴァイオリン、その右隣が第2ヴァイオリン
下段左がヴィオラ、その右隣がチェロです。
ご参考までに。
2015/04/26 00:27:04
【Henle Facsimile Edition】
次回のライヴ・イマジン31でベートーヴェンの後期の四重奏曲第15番
Op.132を演奏します。ベートーヴェンの後期の四重奏曲の楽譜はその昔、
Peters以外はあまりお目にかからなかった時代があり、
その校訂にヨアヒムが係っていることから、これで十分だろうと
思っていました。何しろヨアヒムの先生はベームという人で、
ベートーヴェンの後期カルテットをシュパンツィッヒ四重奏団に替わり
演奏した人ですから。その後Henle社により入念に自筆譜、
初版譜などを検討したものが出版されると、なんと今度は同じく
Henle社から自筆譜ファクシミリが出版されました。
この曲の全貌が労せずして入手が可能となったわけです。
絶妙なタイミングを逃さずに活用するべく早速購入しました。
布張り装丁、色彩も忠実に再現、印刷されたとても立派で美しい本です。
悪筆で有名なベートーヴェンですが、思ったほどではありませんでした。
演奏楽譜の記載に違和感を感じたなら確認して納得をする。
その過程で色々なことを考える。また筆致の勢いから作曲者の想いを
読み取ることもできます。のちの人の誰かが書き加えた、
訂正したものなどは明らかに違うものと認められます。
これらの作業の結果、Petersの誤謬も発見しました。
あたりまえのことを普通にやる姿勢が一番大切で、
一番の近道だということ、そしてそれが出来る環境にある。
この人類の宝ともいうべき自筆譜ファクシミリが世に出るのに
ピアニスト・アンドラーシュ・シフの尽力が大きかったそうです。
彼には大いなる感謝をささげます。
(特別寄稿・J.N)
2015/03/06 15:48:40
【Music Haven Isserlis Edition】
フンメル・「ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン」による変奏曲
フンメル(1778-1837)はモーツァルトの弟子であり、
ベートーヴェンの友人。さらにシューベルトは偉大な最後の3つの
ピアノソナタを献呈しています。この立派な肖像画がのこっている
ところみると当時は結構な評価をもらっていたに違いありません。
そのフンメルは1804年にソロピアノのための変奏曲を
ウィーンで出版しました。譜面がなぜか2声で書かれていることを
見つけ、びっくりしたイッサーリスがヴァイオリンとチェロのために
アレンジしたものがこの楽譜です。フンメルのゴーストに許しを得た
彼は当初6つのヴァリエーションだったものを3つにカットし、
この愛国的な歌をコンサートの最初、あるいはアンコールで
使えるようにしたものとのこと。ヴァイオリンパートは、
マキシム・ヴェンゲーロフのアイデアで、左手のピチカートなど
技巧的なところもありますが、実際のところ重音や高速パッセージ
には手を焼きそうです。いつかチャンスがあれば
ぜひチャレンジしたいものがまた一つ増えました。
(特別寄稿J.N)